1ポジションを持ってから、ある程度利益が乗った所で一部決済し、さらに損切りラインを建値に移動すれば精神的には何となく楽ですし確実に利益を取っていけるように思えます。実際、分割決済を薦めているサイトはよく見かけますし、専業トレーダーでも使っている方はいらっしゃいます。
今回の記事ではそんな分割決済は本当に効果的なのかどうかロジカルに考えてみたいと思います。
想定するトレードパターン
検討してみるパターンとして、大きくは報酬比率(リスク・リワード・レシオ)が1倍と2倍の場合を想定し、それぞれにおいて一括決済と分割決済について考えます。
すなわち報酬比率1倍(図1)のパターンは、一括決済ではエントリーしてから20pipsの利益が出たら決済し、逆に20pips逆行したら損切りするとします。したがって報酬比率は一括決済を念頭に置くと1倍になります。分割決済では、10pips利益が出たら半分決済すると共に損切りラインを建値に移動します。その後さらに10pipsの利益が乗ったらもう半分のポジションを決済します。損切りについては一括決済と同じですが、10pipsの利益が出れば損切りはなくなります。
報酬比率2倍(図2)のパターンは、報酬比率1倍の損切りライン位置がエントリー位置から10pipsの所に設定します。
なお、ポジションは2ロット(20万通貨)持つこととします。
報酬比率1倍パターンにおける一括決済と分割決済の比較
まずは一括決済のポジションクローズパターンを洗い出してみます。こちらは簡単で下表の通り2パターンしかありません。
パターン | 獲得pips | 利益 | 報酬比率 |
利食い | +20pips | ¥40,000 | 1倍 |
損切り | -20pips | -¥40,000 | — |
次に分割決済ですが、ポジションを全てクローズするに至るパターンは下表の3通り考えられます。
分割決済で厄介なのは報酬比率をpipsで算出してしまうと実際の損切りと利益の倍率を正しく反映していない点です。ここは利益をもとに報酬比率を算出しておくときちんと報酬比率を把握できます。
パターン | 獲得pips | 利益 | 報酬比率 |
A. 全ポジション利食い | +30pips | ¥30,000 | 0.75倍 |
B. 半分利食い + 半分建値決済 | +10pips | ¥10,000 | 0.25倍 |
C. 損切り | -20pips | -¥40,000 | — |
さて「1回の損切りに対して負けを取り返すには一括決済と分割決済でどれだけ勝たないといけないか」を比較したのが下表です。
一括決済は1回勝てば負けを取り返せます。それに対して、分割決済の取り返し方は3通りありますが、いずれも2回以上勝たないといけません。下表分割決済の1つ目のパターンは20pipsを2回取らなければならないですし、2つ目は20pipsと10pipsを2回取らなければなりません。3つ目は10pipsでよいですが、4回も勝たなければなりません。
一括決済 | 分割決済 |
1回の利食いでトントン | パターンAを2回で損を取り返した上に¥20,000のプラス |
パターンAとBの2回(順不同)でトントン | |
パターンBを4回でトントン |
報酬比率2倍パターンにおける一括決済と分割決済の比較
報酬比率1倍の時と同様、一括決済のポジションクローズパターンは下表2通りしかありません。
パターン | 獲得pips | 利益 | 報酬比率 |
利食い | +20pips | ¥40,000 | 2倍 |
損切り | -10pips | -¥20,000 | — |
分割決済も報酬比率1倍の時と同じように3通りで、損切り部分の利益が変わるので報酬比率も変わっています。
パターン | 獲得pips | 利益 | 報酬比率 |
A. 全ポジション利食い | +30pips | ¥30,000 | 1.5倍 |
B. 半分利食い + 半分建値決済 | +10pips | ¥10,000 | 0.5倍 |
C. 損切り | -10pips | -¥20,000 | — |
報酬比率2倍のパターンについて「1回の損切りに対して負けを取り返すには一括決済と分割決済でどれだけ勝たないといけないか」を比較したのが下表です。
報酬比率1倍の時と比較してみてどうでしょうか。まだ一括決済に比べると2回勝たないといけないパターンが多いですが、下表分割決済の1つ目は1回の勝ちで¥10,000のお釣りがくることが分かります。とはいっても一括決済は1回勝てば¥20,000のプラスなのでまだ分が悪いは悪いです。
一括決済 | 分割決済 |
1回の利食いで損を取り返した上に¥20,000のプラス | パターンAを1回で損を取り返した上に¥10,000のプラス |
パターンBの後にパターンAの2回で損を取り返した上に¥20,000のプラス | |
パターンBを2回でトントン |
まとめ
以上、一括決済と分割決済それぞれの全ポジションクローズに至るパターンを分けて「負けを取り返す」という観点から比較してみました。
報酬比率1倍のパターンでは、少なくても2回以上勝たなければなりませんでした。報酬比率2倍パターンでは報酬比率1倍よりはましにはなりますが、それでも一括決済よりは勝率を高めないといけません。
分割決済は一部のポジションの利益を確保でき、さらに残りのポジションについても建値に損切りを移動できるので何となく有効な決済手段のように思われますが、実は勝率を高めないと一括決済より分が悪いことが分かりました。
どうしても分割決済を使いたい場合は、勝率か報酬比率を高める優位性のあるエントリーポイントを見極める必要があります。そのような訳で分割決済は上級者向きな決済手段と言えます。
最後に付け加えると、前述した通り分割決済はpipsでは報酬比率を正しく判定できなかったようにトレード履歴の管理が一括決済より煩雑になります。この点からもFXを始めたばかりの方は分割決済を使わない方が良いと考えます。